2023/01/08

サピエンス全史


この本は前々から読もうとは思っていたのですが、内容が堅そうだったので躊躇していました。佐々木閑さんの本「宗教の本性: 誰が「私」を救うのか (NHK出版新書 656) 」で引用されていたので、読まないわけにはいかないと重い腰をあげて読みました。

予想に反して読みやすく、素晴らしい内容でした。人類がいかにして地球を支配するにいたったかを、わかりやすく紐解いてくれています。この本は、非二元を学ぶ人にはぜひお勧めしたい本です。

というのは、人類が他の生き物の種たちを圧倒して万物の長として文明を築き、地上の覇者になれたのは、「虚構(想像)」を共通認識として受け入れたからだというのです。人間が想像して勝手に作り上げた様々なものを基盤として繁栄を築いたというのです。

その最初の虚構が言語です。言語を発明したおかげで、人類同士で複雑な情報交換が可能になりました。言語で仲間同士での連携が可能となり、人類よりも大きな種を倒して食べることが可能になりました。そのせいで、人類がいかに多くの地上の生物を絶滅においやったのかを読んで、驚くと同時に悲しくなりました。

大型生物は自然に絶滅したのではなく、そのほとんどは人類によって絶滅させられたと知りました。農耕が始まると、今度は地球上の植物の生態系は人類によって大きく変えられました。地球上のほんの一地域にしか生えてなかった麦や米が全世界へ広がり、地球の植生が大きく変えられました。そして今や、比較的被害を受けてこなかった海洋生物が絶滅の危機に瀕しています。

家畜とペットに適した動物だけを増やし、農作物を作って定住を始めた人類は、今度は「貨幣」という虚構を生み出しました。貨幣の発明のおかげで、人が人を支配する社会が一層発展しました。

一方で人類は、国家、企業、主義、人種など、ありとあらゆる虚構を生み出し、その虚構の上に私たちは生きています。そしてそれは「帝国」へと発展していきました。ここまでが上巻のあらまし。

人間の社会は、虚構の上に成り立っている。その最たるものがインターネットではないでしょいうか。人々はもはや現実を見るのではなく、携帯を見て生きています。その仮想現実の中で生き、洗脳され、幸せも不幸も借り物の価値観の上に成り立っています。

ここからは下巻。
下巻は少し難しい内容でした。最初に宗教について。キリスト教、イスラム教、仏教など、それぞれの宗教がどのように現れ広まっていったのかについて。

そして近代になると、自由主義や共産主義、資本主義、国民主義、ナチズムといった、新宗教が台頭してきました。こういったものを宗教ととらえる視点がすばらしい。

やがて帝国主義が科学と結びつき、ヨーロッパの国々による世界征服の時代が始まります。オランダ、スペイン、フランス、ポルトガル、イギリスがどうやって世界で植民地を支配していったかについて。

当時はアジアの国々の方が強大な国が多かったのに、なぜそれほど強大ではなかったヨーロッパの国々が世界を支配できたかなどは、とても興味深い内容でした。ヨーロッパの国々が、南北アメリカ、南米、オーストラリアの原住の人々をいかに絶滅させていったのか、アフリカからどれほど多くの奴隷を連れていったかを読んで、いろいろ考えさせられました。

産業革命が起こり、蒸気機関を発明したことにより、人間の移動や荷物の運搬が起きると、人間の活動範囲が急速に拡大します。そして資本主義の時代へと突入。人々は必要以上の物に囲まれ、消費することが幸せであると思うようになります。

99%が農業で成り立っていた社会は消え、今や農業人口は1%。一方で、家族や地域というコミュニティは崩壊。この500年の間に社会は大きな変化を経験します。

そこで筆者は問いかけます。「文明は人間を幸福にしたのか?」。なぜなら、かつては家族やコミュニティこそが幸福に基盤であったからです。物質やエネルギーはたくさん手に入るようになり、物質という視点から見れば、人類ははるかに豊かになった。それで、果たして人間は幸せになったのか?

ここで筆者は、幸福とは何か? どういう時に幸福を感じるのか? その尺度は? といった問題について検討していきます。そこら辺がものすごく考えさせられるものがあったのですが、ここで簡単にまとめることができません。

幸せは客観的な条件によるのではなく、期待との差によるのではないか、また、各個人の脳内のセラトニンの多少によるのではないかというアプローチも紹介。もともと持って生まれた生化学的な特性によって決まる部分が大きいのではないかという。そう言われてしまうと、私などはセラトニンが出にくいタイプなのかと思ってしまいます。

でも、言われてみれば、困難な状況にあっても幸せな人はいるし、人から見れば恵まれているように見えても、いつもふさぎ込んでいる人もいる。案外これは当たっているのかもしれません。

そして、仏教の話となり、仏教は渇愛を求めないことで幸福を得ようとすると紹介。この人の仏教に対する理解は的を射ていてすばらしい。

そして最後に、遺伝子操作などの話があり、現人類はさらに進化して、超ホモ・サピエンス(バイオニック生命体)、サイボーグなどとなる可能性を予言しながら終わる。

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本の内容は素晴らしい内容だったのですが、上手に要約できません。今まで私が抱いていた歴史認識がいかに浅いものだったかを思い知らされました。

人類は、科学の力を手にしたために、地球上で我が物顔でのさばり、地球上の大半の動物を滅ぼし、気に入らない原住民を次々と滅ぼし、植生を変えてきたのだということを改めて知りました。

そして最後の、「文明は人間を幸福ににしたのか?」という問いは、おまえにとっての幸せとはなんだ? おまえは幸せか? という問いに変わりました。